第83回多言語社会研究会例会のお知らせ
2020年度の多言語社会研究会東京例会は、新型コロナの感染状況に鑑みて延期しておりましたが、この度、10月例会をオンライン(Zoom)にて開催することといたしました。
みなさまふるってご参加いただきますよう、お願いいたします。
日時:2020年10月24日(土)14:00-18:00
場所:Zoom にて開催します。
参加費:無料
報告者1 :大友瑠璃子(北海道大学)
「日本(語)をめぐる言語政策の動向:言語政策の民族誌に着目して」
本報告では、言語政策研究の潮流を概観した上で、報告者が行ってきた言語政策研究を取り上げる。第三世界の「言語問題」の解決のための研究から、そのような無批判な学術的態度に疑問を呈し、批判的な切り口から言語政策を捉え直すという変革を遂げてきたこの研究領域は、現在、新たな展開を迎えている。政策自体に着目しながらも、言語政策が作用している様々な組織や人々に目を向ける民族誌的なアプローチを援用した研究が増えている。このアプローチでは、言語政策には、多様な読み方があることを示し、また、それが策定・実施される過程で、言語政策に関わる組織や人々が直面している政治・経済・社会的な状況や人間関係の中に置かれることにより、修正されたり、覆されたりする可能性を指摘している。報告者は、この「言語政策の民族誌」の概念的枠組みを利用して、経済連携協定の枠組みの中で外国人看護師・介護士人材を受け入れている制度を言語政策として捉え、調査してきた。本報告では、この調査についての報告を中心に、近年の日本(語)をめぐる言語政策について議論していく。
報告者2: 沈 吉穎( SHIN Kitsuei ): 大阪大学言語文化研究科博士後期課程2年
「外国人高度人材」概念の意味変遷に関する一考察
外国人高度人材は、しばしば、「国内の資本・労働とは補完関係にあり、代替することが出来ない良質な人材」、もしくは「イノベーションをもたらすことが期待できる人材」として、世界的に戦略的獲得の対象として表象されてきた。しかし一方では、アニメなどの特定の分野で働く外国人や地方大学出身の留学生が、外国人高度人材として認可されやすいことも指摘されている。
本研究の目的は、「外国人高度人材」の概念に含まれるのが誰なのか、その時々に外国人高度人材に期待された役割がいかなるものであったのかを明らかにすることである。研究方法は、日本の全国紙五紙の新聞記事を手がかりに、当時の政策の動向や関連する公文書を参照しつつ分析・考察を行う。
分析結果から得られた知見は、外国人高度人材は、一つの定義にはおさまらない様々な意味を付与されているという点、そして、外国人高度人材とされる人々が、様々な意義と社会的役割を与えられているという二点である。結論としては、外国人高度人材は必ずしも高度な専門性と技術力を持った人材ではなく、その時々に様々な形で社会情勢と関わりを持ち、政治解釈に応じて常に変化する概念であることが明らかになった。