第91回多言語社会研究会例会のお知らせ
第91回多言語社会研究会例会を、オンライン(Zoom)にて開催いたします。みなさまふるってご参加ください。
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日時:2022年10月29日(土)14:00-18:00
場所:Zoomにて開催
参加費:無料
参加を希望される方は以下のフォームからお申し込みください。
https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/meeting/register/tZMvf-Cvrj0pGtItrzINTyEPfDFqOhClnpNF
<報告1>
西島順子(大分大学)
「民主的言語教育とデ・マウロの言語思想―イタリアのplurilinguismoにもとづく言語教育―」
本発表は、1975年にイタリアで提唱された民主的言語教育のplurilinguismoの概念と、その提唱者で言語学者のトゥッリオ・デ・マウロの言語思想を明らかにする。
2001年、欧州評議会はCEFRの発行に際し、複言語主義を提唱した。しかしその20年以上前に、イタリアではデ・マウロがplurilinguismoを構想し、それにもとづく「民主的言語教育」を提唱した。この教育は、言語権や表現の自由を尊重し、多様な言語を承認するものであった。
民主的言語教育が創出された背景にはイタリアの言語格差に起因する社会格差があった。イタリアは1861年の国家統一以降、フィレンツェ語に由来する「イタリア語」を教育言語と定めた。しかし、数多くの少数言語や、統語や語彙が異なる地域語が存在するなかで、1960年代になっても言語統一は進まず、イタリア語を理解しない生徒は義務教育を終えられずにいた。デ・マウロはこの状況を社会言語学の視点から分析し、少数言語話者や方言話者が社会的弱者となっている事実を看破するとともに、単一言語教育ではその不平等を解消し得ないと考え、plurilinguismoの概念を包摂する民主的言語教育を提言した。
発表では、このイタリアの言語状況をもとに、デ・マウロのplurilinguismoと言語思想を論じる。
<報告2>
半嶺まどか(名桜大学)
「マスターアプレンティスプログラムの石垣島での取り組みの紹介と今後の課題」
社会言語学の分野では、近年、ポストヒューマニストおよび、ディコロニアルな関心から、言語の概念をとらえなおす試みが見られる。前者は人間中心的な言語のとらえ方を疑問視し、後者は、植民地主義がもたらした継続的な支配や権力に影響された言語観を疑問視している。この流れを踏まえ、本発表では、琉球列島で伝統的に話されてきた琉球諸語の再活性化に焦点を当てる。琉球諸語は、過去半世紀の間に世代間継承が断絶し、消滅危機言語と定義されており、新しく第二言語として学ぶ学習者は、発表者のように日本語のみで育った世代に属する個人がほとんどである。しかし、過去と比べると、若い世代でも琉球諸語を学び話すためのグループや勉強会、地域の草の根レベルでの取り組みも琉球列島の各地で見られる。本発表では、発表者が同僚と石垣島で共同的に試みているマスターアプレンティスプログラムの取り組みの紹介をし、継承の課題を探るとともに、現在の琉球諸語の再活性化における課題として、継続的な不可視性を取り上げる。不可視化されうる言語とそれにかかわる人々を解放する目的で、今後の言語教育の可能性について議論する。